エコナビ2008:インフレ無策、G8限界露呈 新興国の大量消費、止められず
- 2008/06/15(日) 00:00:00
<ECONOMIC NAVIGATOR>
14日閉幕した主要8カ国(G8)財務相会合の共同声明は世界的なインフレ圧力に協調して対応する姿勢をアピールした。しかし、インフレ圧力の原因である原油・食糧価格高騰の根底には、中国やブラジルなど新興国のエネルギー大量消費がある。G8は中国やブラジルとの拡大会合で、本格的なエネルギー節減を促したが、成果は乏しかった。声明に盛り込んだ産油国への増産要請も、G8メンバーの産油国ロシアでさえ及び腰。新興国や産油国に対し、影響力を発揮できなかった大阪会合は「世界経済を回し切れないG8の限界」(国際金融筋)を浮かび上がらせた。【清水憲司】
「世界経済はファイナンス(金融)、フード(食糧)、フュエル(燃料)の三つの『F』に席巻されている」−−。ラガルド仏経済・財務・雇用相は14日の会合で、米サブプライム問題による金融市場の混乱も収まらないうちに、インフレ圧力増大に苦しめられる現状を「3F危機」と表現した。特に、わずか1年半で3倍に跳ね上がった原油(燃料)高は、世界的なインフレの大波を起こし、インドや中国、ブラジルなどの新興国の金融引き締めにつながっている。金利上昇が新興国経済の失速を招けば、中国、ブラジルなどへの輸出に頼る傾向を強めている日本や米国経済も一気に後退局面入りしかねない。このため、G8財務相会合は、原油高抑制に向けた新興国との連携に躍起となった。
新興国に根強い原油先物市場での投機取引批判に配慮し、国際通貨基金(IMF)に原油高と投機マネーとの関連を調査させることで一致。さらに、省エネ技術の導入支援などで、経済成長を犠牲にせずに新興国のエネルギー消費が大幅に抑制されるとの青写真も描いた。
しかし、「省エネを言うなら、先進国の努力が先」(ゼーリック世界銀行総裁)との思いが強い新興国からの理解は十分には得られなかった。G8は、原油高への有効打を放てないまま、7月の北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)を迎えることになる。
◇手詰まりサブプライム
米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライムローン)問題で多額の損失を出した欧米金融機関の経営問題が解決せず「市場の再混乱への警戒が緩められない」(額賀福志郎財務相)ことも、G8の政策手詰まり感を増幅している。
米金融機関はサブプライムローンに直接関連する損失こそ処理したものの、不動産下落が止まらないため優良担保の証券化商品の含み損を拡大させている。中央銀行の大量の資金供給で「小康状態を保っている」(財務省幹部)状態で、新たな金融危機への懸念は市場でくすぶったまま。
リーマン・ブラザーズが6月に格下げされ、経営者更迭や新たな資本増強を迫られたことも不安を広げており、欧米中央銀行は多額の資金供給を止められず、インフレ圧力を自ら高めてしまうジレンマに直面している。
◇「環境」でも新興国警戒
G8財務相会合は、地球温暖化対策の目玉として、日米英が提案した「気候投資基金」の早期創設を前面に打ち出した。
日米英が意気込む背景には、基金をテコに、温室効果ガス排出削減の国際的な枠組みに中国やインドなどの新興国を引き込みたいとの思惑がある。
特に、ポールソン米財務長官は「基金の規模を100億ドル(約1兆1000億円)に拡大したい」と、新興国支援の姿勢を強調してみせた。
しかし、「支援と引き換えに温室効果ガスの削減義務を課せられるのでは」と懸念する新興国側は、水面下の交渉で「(削減状況を)厳しく監視しない」など、さまざまな注文を日米英に突きつけてきた。
「100億ドル基金」といえども、温室効果ガス削減の枠組みに新興国を引き込むのは簡単ではなさそうだ。
◇米財務長官「強いドルを維持」
ポールソン米財務長官は、14日の主要8カ国(G8)財務相会合後の会見で、「米経済の潜在力は強固で、必ずや通貨にも反映する」と述べたうえで「ドル高は米国の国益だ」と、ドル安阻止に強い姿勢を改めて示した。
ドル安が原油市場に投機資金を流れ込ませ、原油高騰を招いているとの見方に対しては「原油はすべての通貨に対して高騰している。ドルとは関係ない」と否定した。
一方、フランスのラガルド財務相は、ポールソン長官が本会合で「強いドル」に言及したことを明かしたうえで、「私は満足している」と述べ、ドル相場安定の必要性に理解を示した。
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■G8財務相会合共同声明(骨子)
・世界経済は逆風に直面
・原油・食糧価格上昇は世界の安定成長の重大な試練で、インフレ圧力を高める恐れ
・石油市場の透明性向上のため、流入する資金規模などのデータを整備
・国際通貨基金(IMF)などに原油高騰の背景分析と報告を要請
・バイオ燃料は非食糧からの生産方法の開発が優先課題
・日米英が提案した途上国の温室効果ガス削減を支援する「気候投資基金」の設立を支持
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■ことば
◇気候投資基金
途上国の温室効果ガス削減支援のため、日米英が提案している。世界銀行に設置し、日本は最大12億ドル(約1300億円)、米国が20億ドル(約2100億円)、英国が8億ポンド(約1700億円)の拠出を表明。中国やブラジルなど新興国向けに電力・運輸部門の省エネ設備導入を促す「クリーン・テクノロジー・ファンド」と、アフリカなど貧困国の森林保全などを支援する「戦略気候ファンド」の二つで構成する。
毎日新聞 2008年6月15日 東京朝刊
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